先日、実際に私の【接遇セラピー講座】を学んだ受講生さんから、うれしい報告がありました。

「半年間お風呂に入っていなかった方が、ついに入られました!!!」

それも、たった一言の声かけで叶ったというのです。
彼女は一体、相手に対してどのような対応をしたのでしょうか。

本記事では、介護医療現場20年以上のわたしの経験をもとに、入浴拒否を解決する実践的な声かけや対応をご紹介します。

高齢者の入浴拒否に対する声かけ以前の3つの心構え

まず初めに、声かけの言葉の裏にある心構えについてです。

「お風呂には入るべき・入らせねばならない」という、こちら都合の声かけでは、入浴拒否の解決は難しいです。

では、解決に近づくにはどのような心構えが必要であるか、大切な3つのポイントをお伝えします。

言葉と意識を変える

勤務先の病院。ある日の職員朝礼です。看護師が院長に報告をしました。「佐藤さんは入浴拒否が続いています。」すると、院長が「拒否ではなく、希望がないと言い換えて下さい。」と言いました。私はその院長の言葉がとても印象に残りました。

主体はあくまでもご本人である。こちらは、こちらの都合で入浴をさせたがっているだけ。

今回の記事のタイトルと文中には、現場で当然のように飛び交う「入浴拒否」とという言葉を使っていますが、普段は私は使いません。「入浴のご希望がありませんでした」と意識して発言します。

とは言え、ご家族の要望や、介護計画にそうこと、肌を清潔に保ち感染症防ぐといった観点から、入浴の声かけに協力いただけない状況は、切実な問題です。「入れなければならない」という状況があることも承知しています。

入浴を俯瞰的に見る

もう20年ほど前。生活動作に関する勉強会でこんな話を聞きました。

私たちは、介護現場で手づかみで食事をする人を問題視するが、世界で箸を使って食事をする文化は3割。

このことを知り、見え方が変わりました。例えば「手づかみが一般的である」と、こちらの枠組みが変われば、問題は問題でなくなります。

また、麻痺や上肢の障がいによって、箸やスプーンを使いづらい方に、「おにぎり」で食事提供をする工夫は、介護現場もしくは子育ての場面で経験されたことがあると思います。

入浴に対しても、「入浴は当たり前」という一方向の価値基準からだけではなく、視点を変えて捉えなおすことは可能です。

そのためのヒントが以下です。

日本の入浴文化

日本は、世界でも珍しい入浴文化を持ちます。

  • 毎日入浴
  • 湯船につかる
  • 家族単位の風呂文化

背景として

  • 温泉文化
  • 湿度の高い気候
  • 清潔観念
  • 仏教の浄化思想

などの影響があります。

日本の介護施設では、厚生労働省の定める運営基準により週2回以上の入浴(清拭)を遵守する必要があります。

ですが、高齢者の皮脂を守り乾燥を防ぐために、週1回のシャワー他は清拭、という考え方の国もある。そのことを知ると、これまでとは違う視点を持つことができ、心構えは変わります。

「相手の尊厳を守るための入浴や清潔保持」が、「尊厳を無視するような対応での入浴サービス」になることを回避できると考えます。

高齢者の入浴拒否の理由

入浴を拒否するのはなぜなのか。世話されることを受け入れないとか性格がわがままである、という捉え方ではなく、ご高齢者の立場からの理由があります。そこに心を寄せることで、効果的な声かけにつながります。

身体的負荷

大正生まれのわたしの祖母がデイサービスに通っていた頃の話を、当時お世話してくださったスタッフさんから聞かせてもらいました。

「千代子さんはお風呂に誘うと嫌がっていました。その断る時の台詞はいつも同じでした。“お風呂に入ると100mを全力で走った時ぐらいきついんよ。あんたらにわかるかい?”」

はじめてそのエピソードを聞いたときは、「ばあちゃん、うまい言い訳しているな」と思いました。ですが、知識や経験を重ねた今は、祖母のきつさを、分からないなりにも想像することができるようになりました。

入浴中の血圧は、入浴前から入浴直後に急激に上昇し、その後、浴槽内で急激に低下するという、大変動を示します。さらに、関節拘縮や筋力低下により、一連の入浴・着替え動作にかなりの時間と努力を要します。

「心身の負担が大きい入浴」を避けようとする言動に、納得がいきます。

認知機能の低下によるもの

「お風呂いかがでしたか?」と問うと、「気持ちよかった」という答えが来るかな、とこちらはある程度予想をするのですが、時に「えっ?」と驚く答えが返ってくることがあります。

  • 「頭から水をかけられた」
  • 「急にお湯をかけられ、びしょぬれになった」
  • 「風呂場に男がおる」
  • 「服がなくなった」
  • 「これ、自分の服じゃない。こんなのを着せられた。」
  • 「時計がない」

認知機能に障害がある場合、出来事そのものは忘れても、不安や恐怖などの感情が強く残ります。

入浴した・しないについてはお忘れになっていても、日が変わり似た場面がやってくると、危険を察知する勘・感情のデータが働きます。

入浴対応の格好をした職員から誘いの声がかかると、“頭から水をかけられた”ことを思い出し警戒し、「入浴拒否」になるです。

恒常性の維持・変化へのブレーキ

精神疾患のある方や、てんかんのある方、超高齢の方が入浴をためらう姿を見ていると、そこには「恒常性を守ろうとする生体のしくみや潜在的な意識」が働いているように感じます。

先ほど祖母の例でも挙げましたが、入浴は血圧や体温、自律神経に変化をもたらすため、体にとっては小さくない刺激です。心身が特に敏感な状態にあるとき、人は本能的にその変化を避け、今の安定を保とうとするのかもしれません。

また、「こだわりがあるために1回の入浴時間が1時間以上かかる」「入らない期間が長くなると、入れた時に洗い方がますます念入りになり、さらに時間がかかる」。そのような現状を教えてくださった、障がいを持つ当事者のご家族もいらっしゃいました。

これまでの習慣や嗜好

入浴を希望なさらない方、と並んで、髪を洗いたがらない方もおられます。
その理由が、過去の習慣や、自分自身の好みやこだわりからくるものもあります

車いすご利用のMさん。入浴の後、一生懸命車いすを動かし、鏡の前に移動。
水道の水を手にとり、髪の毛になでつけています。

お話を伺うと、髪の毛を洗った後、ぱさぱさして膨らむ嫌だということが分かりました。

ですが介護現場では、皮脂でべたついている髪を何とか洗いたいというところに視点がいきがちです。ご本人自身の思う容姿への納得感よりも、「皮脂を落とす」ことが重視。「べたつきよりはパサパサ」。

Mさんにはヘアクリームを用意し、洗髪の後つけていただき、髪の毛が落ち着いて納得・安心して過ごせるように対応しました。

入浴拒否なく対応できた事例

ここで、半年ぶりに「入浴しよう」という気持ちへとお相手の心を動かした、介護スタッフの声かけを紹介します。

サービス付き高齢者住宅で生活される女性Sさん。
1時間ほど屋外を歩ける身体状況で、認知症をお持ちです。
ご用事と散歩以外は、お部屋から出ることがありません。

その日、めずらしく、ご用事はないのにお部屋から出てきたそうです。
「何か手持ちぶさたな感じでいらっしゃるのかも。チャンス!」と思い、次のようにお声をかけたそうです。

「お湯を張ったのですが、入る予定だった方が入らなくなり、お湯を捨てるのがもったいないです。Sさんお風呂いかがですか?」

いつもとは異なるご様子で部屋から出てきたことを察し、タイミングを逃さず、かつ、ずっと入っていないことやには一切触れず、プライドに配慮した見事な声かけです。

認知症高齢者の入浴拒否の事例

ここでは、1か月以上お風呂に入ってなかったNさんが、対応するスタッフが心構えを見直し実践したことで、翌日入浴できた、という例をお話しします。

介護士からわたしに、相談がありました。「Nさん、髪がべたついているから髪だけでも洗って欲しい。どう声かけすればよいですか?」という内容でした。

まず、「べたつくのは不衛生で、髪を洗わせたい」という、「こちらの都合ベース」の思いをいったん脇に置くようにスタッフへお伝えしました。

それから、認知症をお持ちであるNさんの、日頃のご様子や発する言葉から、洗いたくない理由をいくつか想像しました。シャワーをかけられる怖さや、身につけるものへのこだわりなど。

例えば、シャンプー。ブランドも分からないまま施設の用意したもので、髪を洗われることに、抵抗を感じる可能性だってあるかもしれない。スタッフは、Nさんのお部屋掃除の際、お相手のことを知ろうと、愛用してきたのシャンプーについて話題にしたそうです。

嘘みたいなお話ですが、その翌日、Nさんはお風呂に入り髪を洗いました。

入浴拒否声かけの言い換え7選

同じセリフであっても伝わらない場合はあるし、言う人によっても結果は異なるかもしれませんが、これまでの経験上、効果的だった言い換えを7つ紹介します。

①相手の価値に寄り添った入浴の声かけ

「明日先生の診察があるので、お風呂に入っておきましょうか」

②安心安全を保障する入浴の声かけ

「Kさん、Nさん一緒に行きましょう。一緒だから安心です」

③なじみを活かし、所属の欲求に働きかけた入浴の声かけ

「Hさん向こうでTさんが待ってますよ、さあ行きましょう」

④席を立ち移動するという行動喚起

「背中に薬を塗りますので、お風呂場にどうぞ」

⑤相手の望みを捉えて関わる

「お風呂に入って、湿布を貼り替えましょう」

⑥QOLに働きかける入浴の声かけ

「朝の光が差し込んで露天風呂のようです、行ってみましょう」

⑦役割を相手にお渡しする

「わたし髪を触るのが本当に好きで娘の髪カットしてました。今日はSさんの髪を触らせてもらえますか?ぜひシャンプーさせてください」


心を動かした入浴の声かけ。いずれもお相手を日々観察し、これまで関わった中で知りえた価値観に寄り添おうとしている言葉である、という部分が共通しています。

接遇セラピー講座で詳しく学べます

入浴拒否声かけの失敗事例

お相手の心を動かそうと声かけを工夫し対応してきたものの、苦い経験として残っている出来事もあります

90歳を超えた女性Kさん。足腰が悪く体格は大柄です、ズボンの上げ下ろしの動作がスムーズにはいかず、きつい尿臭がありました

家族から「お風呂に入れてほしい」というご依頼も背景にあり、なんとかお風呂へお誘いしたくてやり取りが長く続きました。難聴に配慮し筆談もしました。

「お風呂でさっぱりしましょう」この一言ですんなりはいかず、問答を重ねる中で

・清潔にしていると健康に良い
・清潔にしていると周りとの関係も良くなる

といった説得をしていた、と振り返ります。

最終的にKさんは入浴なさいませんでした。

後日、ご家族より聞いたのは「デイで汚い臭いと言われた。もう絶対デイにはいかない」
実際それからのち、デイには来ませんでした。

清潔が良いと勧められたいうことは「わたしは汚い」ということ。デイに行って入浴をしたくない自分自身を守る心理も働いているかもしれませんが、わたしの誘いは、Kさんにそのように思わせてしまいました。

なぜ入りたくないか、これまでどんな風に入っていたか、どんなふうだったらはいれそうか、そのような相手の気持ちを知るコミュニケーションがなかったと考えます。

「お風呂に入っていただき家族を安心させる。そのミッションを完遂する」という心構えで言葉を発していました。

まとめ

Building

現場の声かけでお悩みの多い「入浴拒否」。今日は、20年を超えるわたしの介護経験をもとに、明日からのヒントとなる具体的な声かけをお伝えしました。

自分ひとりで抱えることなく、どのような声かけが良いか相談しあえる環境、入浴の計画日に入れなかったとしても、代替日を用意するといった柔軟な環境も望まれます。

みなさまの現場で「このような声かけでうまくいきました」というエピソードがあれば、ぜひ教えて下さいね。