対人支援において、どのような言葉を遣うかはわたしたちが想像しているよりもはるかに重要です。
意思疎通をはかるツールにとどまらず、選ぶ言葉によって相手の気持ちや尊厳を守り、相手をエンパワーメントできます。
より思いやりのある表現方法を探ってみましょう。
「拒否」という言葉への違和感
介護現場で当然のように使われている言葉があります。
それは「拒否」というワードです。例えば入浴拒否、介護拒否というように使います。
こちらのお声かけに対して、お相手が「したくない」そのような意思表示をすると、「介護拒否がある」「非協力的」とみなされます。
これは、介助者側が自身の都合で相手を見ている結果だと思います。
「拒否」という言葉の背景
「拒否」という言葉には、こちらの都合に応じてもらえない、聞き分けのない相手、わがままな相手、世話がいる相手、手を取る相手、そのような見方が含まれていると感じます。
現場は、〇〇時までに〇〇しなければならないといったタイムテーブルがある場合がほとんどです。午前10時から11時半までの間に入居者20名のお風呂介助を終わらせなければいけないといった具合に、仕事をさばくことを求められます。
介護スタッフは常に複数のタスクを抱えて動いています。そのうちのひとつの要件に対応している最中に、別のご高齢者から新たなご依頼がくる場合もあります。
このような環境は、相手への見方に影響を及ぼしてしまうのひとつの要因です。
「希望がない」という新しい視点
わたしが2015年から8年間在籍したのは、在宅医療を担う地域のクリニックです。朝のミーティングで、スタッフから「〇〇さん介護拒否が強いです」との報告があがりました。それを聴いた院長がこう言いました。
「拒否」は使わず、「希望がない」と言い換えてください。
拒否という言葉にずっと違和感があったわたしにとって、「ああ、このような言葉に置き換えられるのか!」と歓びがわき上がったことを覚えています。
こちらの都合ではなく、相手の立場を中心においた言葉へ。
心構えを言葉で表す
ご本人が示した貴重な意思表示を、こちらの都合に合わなければ「拒否」として扱われてしまう状況。同じくこちらの提示した、例えば作業活動等に参加しなければ「意欲がない」と評価されてしまう状況。
もしも、わたしたちの介護観が、お相手の意思を尊重したい、敬意の気持ちを忘れず介護をしたいというならば、その心構えを言葉で表現していきませんか。
時間がない、忙しい、周りがそうしている、そう言っているという理由で、自分自身の目指したい介護に背いていくと、心はすさみます。
積み重なると、他者へ敬意を示せる状態ではなくなります。
思いやりのある介護の実践
簡潔明瞭が求められるスタッフ間の情報共有場面。ですが、たったひとこと。
「入浴拒否がありました」を「入浴を希望されませんでした」と置き換えてみてください。
その一瞬で、こちらの都合を脱し、相手の立場に立った、相手の意思を尊重する支援に変わります。
まとめ
介護は人を管理する仕事ではありません。相手の生きる力をサポートする大切な仕事と考えています。
言葉遣いを見直すことで、より思いやりのある、質の高い支援を提供することができるのです。
わたしたちが、この意識を持って日々の業務に取り組むことで、お相手の幸福度や生活の質を向上させ、同時に自分たちの仕事にも大きな意義を見出すことができるでしょう。