「分かっちゃいるけど言っちゃう」を卒業する!スピーチロックを自然に防ぐ魔法の対策と言い換え10選
「危ない!」「ちょっと待って!」介護の現場では、忙しさや安全管理の意識からつい相手を制する言葉出てしまいます。それが良くない対応であると分かっていても…。
本記事では、わたし自身の20年超の経験と観察をもとに、どなたにも実践できるスピ―チロックを防ぐ対策と、言葉の言い換えを分かりやすく解説します。自分自身が癒され、お相手との良好な関係を築き、さらには職場環境の改善にもつながるヒントになれば幸いです。
スピーチロックとは

介護現場における「身体拘束」と聞いて、どのような場面が浮かびますか。
実は、抑制帯やミトンの手袋以外にも「身体拘束」にあたるものが3つあります。
身体拘束にあたる3つのロックとは
- フィジカルロック
抑制帯や4点のベッド柵で囲むなど、物理的な道具を用いて身体の動きを抑制すること。
- ドラックロック
薬の過剰投与や不適切な投与により、動けなくさせたり眠らせたりすること。 - スピーチロック
「ダメ」「ちょっと待って」、といった言葉によって、相手の心身の動きを制限、禁止すること。
この中のひとつ「スピーチロック」について、その要因や影響をみていきましょう。
スピーチロックが起こる原因

スピーチロックが起こる原因は、主に4つあります。
- 人手不足と多忙な業務
施設の人員基準は定められているものの、フルタイムで勤務していた頃の感覚としては、時間内にひとりで担えるほど以上の業務量であったように感じます。
高齢者への直接的なケアに限らず、アセスメントや記録、行事やレクリエーションの企画準備、運営上の会議、ご家族対応など、多方面にわたる仕事があります。
心も体力にも余裕のない状態において、スピーチロックにあたる言葉を使ってしまう、ということがおこると考えます。 - 時間的な管理が重要視される
ご高齢者のお声に耳を傾けたい、でも昼食開始の時間までに入浴サポートを終えなければならない。このような葛藤を抱える状況が現場には多く生じます。
スケジュールに沿った流れの中で、お相手に動いていただく。そうなると、せかしたり、奪ったり、制したり、といった関わりになってしまいます。 - 安全・リスク管理が求められる
例えば、病状悪化を防ぐための食べ物の制限。転倒事故を防ぐための対応。
ご本人の意思と、ご家族のご要望と、医療的な常識と、生活の場で叶えたいこと、それらのはざまで直接の対応をするスタッフ。
「医療的な常識」「事故防止」が優先的な雰囲気がある介護現場、または、対応の方針があいまいな現場では、健康・安全管理という名のもとに、スピーチロックがおこりやすいと考えます。 - 虐待や職業倫理について学ぶ機会がないこと
言葉の拘束について知らない、どのような言葉がスピーチロックに該当するのかを知らない。
知識を得る場や、研修の機会がないこと、もしくは「相手の自由や意志を奪っている」という認識や想像力が及ばないことは、スピーチロックを招く原因のひとつです。
スピーチロックの影響

次に、スピーチロックの影響について考えていきましょう。
「意外」と思われるかもしれませんが、その影響を受けるのは、決して言葉を浴びたご高齢者にとどまりません。実は、発した自分自身や職場環境に深く関わってくるのです。
相手の生きる力を奪う
選択権や自由度がないと感じた場合に、人の健康や生命力がどうなるかを研究したデータがあります。
わたしの考案した「接遇セラピー」も、この研究結果と出会ったことから生まれています。
職場環境への影響
ある時、知人から「口調が強めのベテランさんが入職した。なんとなくみんなの口調も強くなっているように感じる」との話を聴いた。逆もあり、接遇セラピー講座受講生から「接し方を丁寧にしていたら、周りも優しくなったような気がする」との感想をいただいた。
言葉も感情も伝染します。「ありがとう」の声をかけたお米と、暴言を浴びせたお米の腐敗度合いが違うという実験結果も示すように、
相手を管理拘束・コントロールしようとする言葉を使うのか、相手を尊重する言葉を選び使うのかで、他の職員を含む職場環境をも左右するのです。
自分自身を傷つける
「ご高齢者とお話しすることが好きでこの世界に入った」「サポートの必要な方の力になりたい」「楽しく仕事がしたい」「自分の優しさを活かしたい」など、望む仕事観や介護観、志を持ち、介護職を選んだ方もおられると思います。
ですが、相手に丁寧に接することよりも、効率(こなすこと)が優先されるような状況に不本意ながらも合わせていくことをしている。
それは「葛藤を抱える」という以上に自分自身の望みを裏切ることであり、心を傷つけているとわたしは考えます。いつしか感情は鈍麻してしまいます。
スピーチロックへの対策

現場でたくさん見聞きしてきたスピーチロック。その要因は、人手不足や相手をコントロールしようとする管理的な風潮であると述べました。ですが、外的な環境のせいだけにせず、自ら始められることがあります。
もっと言えば…環境や場に影響を及ぼし、周囲に見えている現象を作り出しているのは自分自身でもあるのです。変える・整えるのは、まず自分です。その鍵となる3つをお伝えします。
①知識として学ぶこと
わたしが主宰する接遇セラピー講座では「生きる力を支える声かけ」を多くの方に学んでいただいています。
接遇セラピーを学んだ受講生さん。なんと半年間お風呂に入らなかった入居者さんの心を動かす声かけで、即日入浴が叶いました。
「スピーチロック」についてさらに学びたい・「接遇セラピー」が気になるという方へ、体験会があります。
②背景と経緯を知ろうとすること
ご高齢者の行動が、どのような理由でおきているのか、どのような経緯でおこったことなのか、に関心を向けて下さい。
相手に思いをよせる間もなく、脊髄反射レベルで「危険」「不適切な行動」「不十分な行動」とみなし、スピーチロックが飛び交う現場。
ひとつの例を挙げると、ある食事場面での出来事です。
不自由のある上肢で、ようやくおさじひとすくいのおかずを口に運んだ女性。その手をふっと休め瞬間に、たまたま振り返って女性の方向に視線を移したスタッフが「何ね、止まってるよ。手を動かして食べんね!」と声をかけました。
正直、「声かけ」ではなく、相手の生きる意欲を奪う「言葉の暴力」です。
言葉を発する前に、相手の状況を知ろうと、ほんの一瞬でも立ち止まってほしい。目に見える身体的な暴力を行わない意識と同等に、言葉の暴力を振るわないと心に決めて下さい。
③身体的距離に甘んじないこと
排泄や入浴のサポート、着替えや移乗の動作のサポート。いずれも、相手のパーソナルスペースにたやすく入り込む関わりともいえます。
ひと対ひと、気遣いや配慮を持って接する関係。それが知らず知らずに「世話する側とされる側」になり、「相手は介護がなければ生きていけない人」という傲慢さや甘えが生まれる。「管理する側、される側といった支配的な関係」とも言い換えられるでしょう。
身体間の距離がごく近いこと、プライベートな排泄・入浴場面に入り込むことへの自覚をもつ。そして、自分で自分のことができず他者に委ねなければならない相手の気持ちを想像すること。その心構えを育てるために、遣う言葉の型を知り、実際に遣っていくのです。
スピーチロック言い換え10選

言葉を変えて、型を用いて適切な距離を整える。それは、相手の尊厳を守ることにつながります。そのための言葉の型=すぐに活用できる言い換えの例を、10つ紹介します。
危ない!
足取りの不安定なご高齢者が、席を立ちあがった時。それから、床に落ちたゴミを拾い上げようと体をかがめた瞬間に飛んでくる言葉。
前者は「ご一緒しましょう」もしくは相手の元に伺い、サポートできる位置に控える
後者は「ありがとうございます」
片付けようとする意志や想いに対してお声をかけるのです。
ちょっと待って!
「すいません、お願いします」と、頼みごとのあるご高齢者がスタッフを呼ぶ。対応をお待たせしている相手が他にもいるような場面。どのくらい時間を要するかをお伝えすることがポイントです。
「5分ほどお待ちいただけますか?」
「今この仕事が終わり次第伺います。」
座って!
集団体操の途中、司会者の態勢をまねて、椅子から立って体操に取り組もうとしたご高齢者に対して。
「体操への挑戦ありがとうございます」と励ましながら相手のお側に寄る
「ぜひテーブルを支えにして取り組んでみましょう」
サポートのある中だからこそ、安心安全に、少し難しいことにもチャレンジができる。
普段歩ている方が、体操の場で立位を制限される…それで介護予防体操と呼べるのか。
そのような問いも湧いてくる場面です。
ひとりで動かないで!
デイサービスで一日のスケジュールが終わり、送迎の車に乗るため、あるいは居室に戻るために数人のご利用者が移動を始める。
そのような状況をみて、同じように移動しようとする別のご利用者。その方に認知症があるような場合、「ひとりで動かないでください!」という言葉が飛ぶ。
「順番にご案内しますね」
「お部屋までご一緒しましょう」
さっきも言ったけど~
例えば義歯の調整中で、硬いものが噛みづらいために、柔らかいごはんと、小さめに刻んだおかずをご利用者へ提供してるような場面。
「わたしだけおかずが違う」と気になったことをスタッフに訴える。ご本人は記憶障害があるため、事情を説明をしたのちも、繰り返し何度も「わたしだけ違う」とおっしゃる。
確かに忍耐が試されるような状況かもしれませんが、「さっきも言ったけど~」のひとことは避けたい。ここは、相手の言葉そのものをオウム返しする、または感情を拾う言葉に置き換えます。
「わたしだけ違って、なんでだろう?と思いましたね」
「なんでかな~?と不信に思いましたね」
まだ食べてるの?
できれば早くに下膳を済ませて、口腔ケアに移行したい。業務を円滑に進めたいという、スタッフ側の背景が言葉に反映され、発せられるひと言かもしれません。
かと思えば、何の意図もなく、ポーンと口にしているように感じる場面にも遭遇してきました。
噛みづらいものはなかったか、姿勢を保持することがつかれたか、お口に合わなかったか、食欲がでないのか、疾病による動作の緩慢さか。
そっと寄り添うような理由の尋ね方、またはこれまでの経験や知識を用いて観察、アセスメントを行うように切り替えることができます。
「お口に合いましたか?」
「最近の食欲はいかがですか?」
またこぼしてる
食事を、こぼしたくてこぼしている人が果たしているのでしょうか。
…少し前のわたしなら、「またこぼしている」と相手に言われたら、カッとなって「じゃあお望み通りこぼしてやる!」と仕返しのようにわざとこぼすかもしれません。
ですがそのようなことをなさる人生の先輩はまれです。わたしたちの未熟さや乱暴な言葉ですら、じっと受け止めておられるのではないでしょうか。
上肢をはじめ、身体の動きに不自由を抱えた方の立場に身を置いたとき、「またこぼしている」と言われてどう感じるか。受け止め方はそれぞれかもしれませんが、このような言い換えや対応が可能です。
「食べづらさはありませんか」
それから、「食べづらいのはなぜか。食べやすくなる工夫はできないか。」とチームメンバーに相談する手もあります。
またトイレ?さっきも行ったよ
「トイレに連れて行って下さい」
「また?さっきも行ったばっかりで。我慢して。」
このやりとりは、出会う頻度が多いです。
数分おきにおっしゃる場合もあるので、「また?」と言いたくなる本音もよく分かります。
「トイレのご心配がありますか」
「ご案内します。そのあと気分転換に手作業しましょうか」
など、「トイレに行きたい」と発したことを否定することなく、なぜご要望が続くのかを考えながらお声をかけます。
余計なことしなくていい
「人のことを心配する前に、自分のことだけ考えて!」という、相手に対するスタッフの苛立ちがのぞいています。
時々「足が痛い」とおっしゃているものの、重たい椅子を運ぼうと、動作をしかけた相手に対して、制する言葉が飛ぶ。
「ご協力ありがとうございます」
「助かります」
「今日はわたしにお任せください」
制する言葉以外に、選択できる言い回しはいくつもあります。
それくらい大したことない
「ちょっと悪いんです」とおっしゃるご高齢者。または、こめかみを押さえながら頭を抱えているご高齢者。そのような言葉やご様子が度々見られる相手の場合、対応する側が軽く流す、ということが起こります。
そこに「それくらい大したことない」「いつもいつも」という言葉が添えられるのです。
ちょっと悪いんですも、頭を抱える動作も、ともにサインです。
このような場合、バイタルサインや観察などで問題がないことを確認したうえで、ある技法が有効な場合があります。
普段通りにできていること、その方の習慣通りにできていることを、取り上げるのです。
「今日もきちんと身だしなみを整えて、ここにおみえになりましたね」
「昼食はいつもと同じようにおいしく召し上がりましたか?」
実際、このような切り出し方をきっかけに、「朝こうして、次こうして、こうだった」と、先ほどまで鬱々としていたご高齢者が、自ら語り始める場面を経験しました。
スピーチロック研修について
介護事業所では、「身体拘束廃止に関する研修」は法定研修として必須です。
実際に、大分の介護老人保健施設にて、「スピーチロック」をテーマに、職員研修を担当させていただきました。
また、「認知症ケアに関する研修」も、作業療法士・認知症ケア専門士・日本コミュニケーション機構上級認定講師としての学びをもとに、お話しさせていただきます。
どちらの内容においても、現場のエピソード・実例が豊富であるという点が特長です。
まとめ
「頭で分かっちゃいるけど、つい言ってしまう。なかなか言い換えができない。」そのようなお悩みが少しでも解決できれば、とお話してきました。
介護の現場で使われる「スピーチロック」。
言い換える言葉を知る・そして意識してその言葉を使っていくということは、相手・環境・自分自身をも励まし、癒します。さらには、この分野で働く希望・生きる希望にまでつながります。
「スピーチロック」についてさらに学びたい・「接遇セラピー」が気になるという方へ、体験会があります。
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