接遇セラピー
言葉とふるまいで心を癒す
介護現場で感じること

「そのノック、心からですか?」

〜“形式”ではなく“尊重”としての関わり〜

介護や医療の現場では、居室や病室を訪問する場面が日常的にあります。
その際、ノックをするのはマナーのように当たり前に行われていることかもしれません。

でも、こう問いかけてみたことはありますか?

「ノックをしたあと、返事を待っていますか?」

形式的にノックして、「失礼します」と入っていないでしょうか。
相手の選択肢を、無意識に奪ってはいないでしょうか。

「返事がない=入っていい」ではなく、
「返事がない=今は入りたくないという意思かもしれない」と
受け取る感性も、私たちには必要です。

この感覚を持てるかどうかは、
相手をどう見ているかに深く関係しているのではないでしょうか。

たとえば「相手は何もわからない人」「反応が返ってこない人」と思ってしまうと、
ノックや声かけも、どこか形式だけのものになってしまいます。

でも、どんな状態であっても、
その方には「自分の空間」「自分の時間」があります。
それを尊重する心が、関わりの出発点になるのです。


「目線を合わせる」というケアのかたち

「目を見て話す」ことは、介護・医療の現場で大切にされてきた関わりのひとつです。
でも、それが“形だけの目線”になっていないか…ふと立ち止まって考えてみることも大事かもしれません。

本当にその方を、“ひとりの人”として見つめていますか?

悪気はなくても、「何もできない人」「反応のない人」と心のどこかで思ってしまっていたら、その目線は、ただの業務的なものになってしまいます。


「目と目を合わせる」ことの意味

ユマニチュード開発者・イヴさんの言葉にこんなものがあります。

「目と目の軸を合わせて正面からしっかりと見たとき、
それは正直さを示している。
近くて長い視線であれば、それは優しさや愛情、友情のあらわれである。」

目線を合わせるという“ふるまい”には、
相手への尊重と、そこにいる“ひとりの人”としての存在価値を伝える力があります。

それは、相手のためだけでなく、自分自身に対しても。
「私は、相手の尊厳を大切にしたい人間なんだ」と確認できる小さくても確かな行動です。



思いやりは、日々の行動の中に

ノックひとつ、視線ひとつ。
どちらも、ほんの一瞬のことかもしれません。

けれどその積み重ねが、
「この人は、私をちゃんと“人”として見てくれている」
そんな安心感や信頼へとつながっていきます。

あなたの優しさは、今日もきっと誰かを癒しています。